Vol.11 1999.11.19発行
慣性モーメントの話題は、既に何回か登場していますので、ご理解いただいている方も多いかと思いますが、ゴルフのスペックで慣性モーメントと言った場合、「ヘッドの慣性モーメント」と「クラブの慣性モーメント」の2種類が論じられます。
慣性モーメントの単位は(g*cm*cm)です。重さに比例し、回転中心からの距離の2乗に比例して大きくなるという意味です。
少し分かりにくいと思いますが、2センチメートルの重さのない棒の両端に、1グラムのおもりをつけた物を回転させる場合、中心からおもりまでの距離は1センチメートル、おもりは2つで2グラムですから、慣性モーメントは
1グラム×1センチメートル×1センチメートル+
1グラム×1センチメートル×1センチメートル=1+1=2(g*cm*cm)
となります。
もし棒の長さを2倍にしたら
1グラム×2センチメートル×2センチメートル+
1グラム×2センチメートル×2センチメートル=4+4=8(g*cm*cm)
という事になり、長さを2倍にするだけで、4倍の効果があることになります。ヘッドという意味で言い換えれば、「4倍回転しにくい」=「少し芯をはずれてもびくともしない」ということです。
もし長さ変えずに、同じ4倍の慣性モーメントを得ようとすると
4グラム×1センチメートル×1センチメートル+
4グラム×1センチメートル×1センチメートル=4+4=8(g*cm*cm)
となり、4倍の重さにしなくてはならない事になるわけです。
重さはあまり重くできない「ヘッドの慣性モーメント」で言えば、回転中心からできるだけ遠い所に重量配分をするのがよいという事になります。中空の大きなヘッドは、小さいヘッドよりも慣性モーメントが大きくなるという訳です。一方、「クラブの慣性モーメント」で言えば、同じ重さでもシャフトを長くすれば、振りにくさは長さの2乗で効いてくるという事になるわけです。腕の長さ等を無視して、単純に43インチが48インチになると、24.6%慣性モーメントが大きくなります。
1999年最新主要ドライバー完全データというものが、日経BP社のゴルフ名人という雑誌に出ています。この中で一番ヘッドの慣性モーメントが小さいクラブはグレート・ビッグバーサ・ホークアイで、2,533(g*cm*cm)です。また一番大きいのはカタナ・スォード350Tiで3,423(g*cm*cm)という値になっています。後者の方が35%大きいことが分かります。ところがヘッド重量は、それぞれ194グラム、184グラムとなっており、ヘッドの慣性モーメントの大きいクラブの方が、5%重量が軽いという面白い結果になっています。これは、後者のクラブの方が周辺に重量をうまく配分しているという事を如実に表わしています。ちなみにヘッド体積を見てみると、前者が243cc後者が337ccと39%も大きく、なるほどそうかとうな ずけます。
だからと言って、前者が悪いクラブ、後者がよいクラブと言うわけではありません。なぜなら、クラブの長さは前者が通常長尺の45インチ、後者が超長尺の48.4インチだからです。従って、後者の方が振りにくく、スイートスポットをはずす確率も高いのではないかという可能性も出てきます。そこで振り易さの指標の一つである、クラブの慣性モーメントの値を見ると、予想通り前者は282万、後者は305万と、前者が振りやすいクラブだという事を示しています。
スペックだけから見た特徴は、ホークアイは振りやすいがスイートエリアが狭く、スォードはいくぶん振りにくいが、その分ヘッドスピードが上がり易く、スイートエリアも広いということになります。
クラブ選びにおいて、スペックはとても大切ですが、スペックだけでは決まりません。自分に合ったスペックを充分研究した上で、やはり試打をして納得して自分に最もフィットするクラブを購入するしかないでしょう。
最近のカタログ等を見ると、「低重心にすると有効打点距離が大きくなるのでスピンを抑えた球が打て、飛距離が伸びる。」という様な事が書かれています。本当にそうなのでしょうか。Vol.08でもご紹介しましたが、周辺に重量配分するということと、低重心にするということは、矛盾することです。低重心にすると言うことは、片側に重さを集めるという事ですから、その分フェイスの上の方は、スイートエリアでなくなる訳です。
●通常のヘッド。 若干フェイスの上の方に当たっでもスイートエリアに当たる。ただし、スピンは大きい。 |
●低重心のヘッド。 フェイスの上の方に当たると、スイートエリアからはずれる。 |
カタログの有効打点距離は、重心の位置からフェイスの一番上までの距離を示していますが、これが大きいほどよいというのは、とんでもない話で、フェイスの一番上で打てば、ひどいテンプラになりますし、上の方はスイートエリアからはずれるので、エネルギーのロスが大きくなり、飛ばなくなるはずです。
低重心クラブというのは、あくまでもフェイスのほぼセンターでとらえた時にスピンが抑えられるという事であり、カタログで言われる「有効打点距離」という言葉の「有効」には、「無効」な距離も含まれている事を認識する必要があると思います。
重心深度とは、フェイス面から重心までの距離のことを指します。同じ形状、同じ重さでも、重心が後ろにある方が、スイートエリアは広くなるわけです。アイアンとウッドの違いは、この重心深度の違いで説明できることが多いと言えます。ウッドはその形状上、重心がフェイス面よりかなり後ろにあります。逆にアイアンは、重心がフェイスに近いところにあります。
●重心が後ろにあるヘッド | ●重心が前にあるヘッド |
この違いが、ウッドはギア効果が大きく、アイアンは小さいということにもなるわけです。アイアンとウッドの違いについては、別途詳しくご説明したいと思いますが、重心深度が大きいほど、スイートエリアが大きくなり、平均飛距離が大きくなると言えます。
先ほどの2つのクラブの重心深度を比較すると、なんとホークアイが34.7ミリに対し、スォードは31.6ミリで、ホークアイの方が重心深度という観点では、スイートエリアが広いという事になるようです。これは、ホークアイがタングステンのおもりを、比較的ヘッドの後方に配置しているからで、このタングステンにより低重心化され、有効打点距離もフェース高さの低いホークアイの方が1センチメートル以上大きいという興味深いデータになっています。
機会があれば、これらのスペック値を多変量解析という手法を使い、分類分析してみたいと思っています。
今回は、何だか難しい話になってしまいましたが、奇々怪々なスペックについて、少しでも興味を持っていただければ幸いです。
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