Vol.08 1999.10.8発行
スライスやフックに関係する、横方向のスピンやギア効果については、本編のVol.3でご説明しました。
http://www.mcx.co.jp/golf/theory/golf03.htm
もし、「ギア効果」の意味が分からない方は、バックナンバーを参考にしてください。
簡単に言えば、ドライバー等、重心位置がフェイスより後ろの方にあり、フェイス面が湾曲しているクラブの場合、ヘッドの先端に当たったボールには、フック回転のスピンがかかり、逆に根本の方に当たったボールはスライス回転のスピンがかかるということです。
また、飛距離を決める要因としては、以下の3点であるということをVol.4でご説明しました。
http://www.mcx.co.jp/golf/theory/golf04.htm
ボールの初速を上げる方策として、クラブの長尺化とスイングスピードの増大、またランとキャリーを考えた最適打ち出し角度があるというご説明もVol.5~7でしました。今回は(3)のスピンと飛距離の関係についてご説明したいと思います。
最近、「バックスピンを減らした方が飛距離が伸びる」という話をよく聞きます。本当でしょうか。これは、ある人にとっては本当ですが、そうでない場合もあるので、単純に鵜呑みにするのは危険です。
バックスピンが多すぎる弾道は、いわゆる吹き上がるボールと言われ、いかにも先で伸びているように見えるのですが、実はボールがスピンにより急上昇し、地面に急角度で落ちるため、ランも出にくく結果的に最大飛距離が得られないということがあります。
また、バックスピンが少なすぎる弾道は、ボールが全く上がらず、スイートスポットに当たっても、低く出てしまい、飛距離が出ないという現象が起きます。この場合は、スピン量のコントロール以前の問題として、ヘッドスピードとクラブ等の組合せが合っていない事が考えられますので、次 のような対策が必要だと思われます。
以上の事から、バックスピンを抑えて飛距離が伸びるというのは、現在バックスピンがかかりすぎており、吹き上がるようなボールを打っている方に限られるということになります。一般的には、ヘッドスピードが大きい方の方が、この傾向は強いと言えます。
●適度なスピンの場合の弾道は、少し高めにボールが出て、吹き上がらずランも出る。多すぎるスピンの弾道は、ボールは低めに出て伸びて行くように見えるが、吹き上がる場合が多く、ランも期待できない。スピンが少なすぎる場合は、ボールが上がらず、キャリーもランも出ない。最適なクラブとボールの組合せ、かつ最適な打点で打つことによってのみ、最高の弾道が得られる。 |
ヘッドのフェイスは、横方向に湾曲しているのと同時に、縦方向にも湾曲しています。横方向のスピンと同様、縦方向にもギア効果というものが、存在します。ヘッドの先端に当たると、右方向に出てセンターに戻るというフックボールになるのが一般的ですが、同様にヘッドの上部に当たったボールは、ロフトによるバックスピンをうち消すように作用します。すなわち、スイートスポットをはずした時、ヘッドはボールに当たった衝撃で ヘッドが重心を中心にフェイスが上に動くような運動をします。そこに接しているボールは、ギア効果により、バックスピンをうち消す方向に力がかかる訳です。同時にボールはやや高めの弾道を描くことになります。
また、ヘッドの下の方に当たったボールは、これとは逆にロフトによるバックスピンをさらに増大するように作用します。
従って、バックスピンのかかり過ぎるボールを打っている人は、スイートスポットより高い位置でボールをとらえた方が、より遠くへ飛ぶという事になるわけです。もちろんスイートスポットで打つのが、最大ボール初速を得る条件ですが、バックスピンによる弾道の違いにより、多少スイート スポットをはずした方が、結果的に飛距離が出るという現象が起きる訳です。
●フェイス面上で、垂線を下ろした線がヘッドの重心点を通る場所を一般的にスイートスポットという。スイートスポットで打つと、ヘッドのエネルギーが最も効率よくボールに伝わる。スイートスポットをはずして打つと、ボールの衝撃でヘッドが別の動きをするため、エネルギーロスが出る。 | ●スイートスポットより上で打った場合、垂直方向のギア効果(青矢印)により、バックスピンをうち消す力が作用する。ギア効果に消費されるエネルギー分だけ、ボールの初速は若干落ちるが、弾道の違いにより飛距離が伸びる場合がある。フェイス面が湾曲しているので、ボールの打ち出し角度も高くなる。 | ●スイートスポットより下で打った場合は、垂直方向のギア効果がバックスピンと同じ方向に働くので、さらにバックスピンが多くかかることになる。ただし、フェイス面の湾曲のため、ボールの打ち出し角度は低くなる。さらに下で打った場合は、いわゆるトップになり、バックスピンの反対のオーバースピン(ドライブ回転)で全く飛ばない事態にもなる。 |
話は少しそれますが、最近のカタログを見ると、スイートスポットとフェイスの最上点の距離を、「有効打点距離」と呼んでおり、この距離が多きいほど飛距離が伸びるというような記述が見られます。確かに、この距離は次の項で説明する重心の位置が低い設計のクラブほど大きくなり、飛距離が出るスイートスポットエリアが大きくなるように思われますが、実際にはフェイスの上の方で打ったボールは、スイートスポットをはずれ、テンプラになるケースも多く、スイートスポットの大きさを無視し、単にこの「有効打点距離」の大きさだけで飛距離が出ると解釈するのは、間違いだと思います。
スピンがかからないとよく飛ぶという現象は、ラフから打つプロのアイアンショットがフライヤー(ボールとフェイスの間に芝がはさまったインパクトになる現象)になりスピンがかからず、予想以上に飛距離が出て、グリーン上で止まらないというのに、よく似ています。アイアンでもあまりスピンがかからず、止まるボールを打てないアマチュアにとっては、フライヤーでも何でもいいからラフから遠くへ飛ばしたいと思うことも多いのですが・・・。
さて、最近のドライバーで、タングステンという比重の大きい金属を、ヘッドの底に埋め込んだものが流行っています。アイアンの場合は、低重心の方がボールも上がりやすく、スピンもかかりやすいというイメージがありますが、ウッドの場合はちょっと違います。(そもそもウッドとアイアンは何が違うのか、なぜアイアンとウッドが連続的に変化するようなセットがないのか、それを実現しそうなユーティリティクラブと言われるアイアンとウッドとの中間的な存在のクラブはどういう特性なのか・・・・。このへんの議論は、近いうちに詰めたいと思っているテーマです。)
もし、全く同じ形状で、重心の位置だけ違うドライバーでティーショットをしたとします。タングステンの入っていない、重心の高いドラバーのスイートスポットで打っている人が、低重心のクラブで打てば、当然スイーとスポットより上で打つことになりますから、スピン量は減り、上記の理論により、結果的に飛距離が伸びることになります。アマチュアに対し、スイートスポットの少しだけ上で打てと言っても、そう簡単にできるものではありません。しかし、低重心にすることで、今までと同じ部分で打っても自動的にスイートスポットの少し上で打てるようになるので、結果的に適度なスピンが得られ、風に強くランも出る、吹き上がらないボールが打てるという訳です。
●重心位置の高いヘッドの場合、スイートスポットの位置も高くなり、スイートスポットより下で打つ確率が高く、従ってスピンの多い吹き上がりボールになりやすい。 | ●重心位置の低いヘッドの場合は、スイートスポットより上で打つ確率が増える(有効打点距離が長い)ので、比例してスピンを抑えたボールを打つ確率が増える。 |
今までの議論では、シャフトの影響はほとんど無視して来ました。読者の方からも、シャフトの影響やスペックについて説明して欲しいというご意見やご要望をいただいております。ギア効果や重心位置の問題、ヘッドの打ち出し角度の問題等、実はすべてヘッドにくっついているシャフトを無視することはできないのですが、そこまで考えるとただでさえ分かりにくい理論が複雑化し、メルマガで理解していただける限界を超えるのではないかと思います。しかし、クラブの中で、かなり大きな影響を及ぼすシャフトについて無視するわけには行かず、クラブを科学するのコーナーで、ゆっくりと紐解きたいと考えていますので、ご了解お願いいたします。
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