Vol.07 1999.09.24発行
よく、鞭のようにしなると言いますが、2メートルの長さの鞭を振り下ろす事を考えて見てください。同じ重さの2メートルの固い棒を振り下ろすのと比べ、先端のスピードはかなり速いのではないでしょうか。手元はわずかにスナップを効かせて振るだけでも、先端はビュンと音を立ててかな りのスピードになるはずです。釣りをやる方はこのイメージが実感として理解できると思います。格闘で使う「ぬんちゃく」などもそうですね。
ゴルフのスイングも同様に、シャフトから手首、腕を鞭のように使えればヘッドスピードが上がるはずです。(以前、マルマンでは「ムチシャフト」という、シャフトの先の方が細いクラブを販売していました。)それでは、シャフトが本当に鞭のように柔らかい素材でできたクラブはどうでしょうか。残念ながらこれはとても難しいようです。ゴルフの場合、フェイスの向きが大きな問題なので、インパクト時にシャフトがしなっていると、方向性が全く出ません。常にインパクト時が最大速度になり、フェイスも目標を向くようにするには、やはりある程度の硬さがなければならないので す。(シャフトのしなり等については、クラブ編で詳細をお話する予定です。)
それでは、この鞭の効果を腕や手首で補ったらどうでしょか。腕を伸ばし、手首もしっかり固めて折らない(コックをしない)打ち方では、この鞭の効果が得られませんが、手首をうまく使えば、鞭の効果を得ることができます。だからと言って、手首をバックスイングでたくさん折り曲げ、インパクトで元に戻すのがよいのか、と言えばそうでもないと思います。ゴルフはバラツキを減らし、確率を上げるスポーツとも言われます。いくらヘ ッドスピードが速くなるからと言って、一本足打法を採用したりしないのもそういう理由からでしょう。コックはうまく使わないと、とても確率の低いゴルフになりがちだと思います。
クラブの慣性モーメントについては、Vol.03でご説明しましたが、スイングにも慣性モーメントという考え方があります。一般に回転するものに関する慣性モーメントは、その値が大きいほど回しにくく、小さいほど回しやすい、という事でした。慣性モーメントが大きいというのは、重心が回転するものの外側に分布している、つまりクラブヘッドが体の回転中心軸より、より遠くを回る事を言います。言い換えれば、全体重量もヘッドの重量も同じであれば、長いクラブを振る方が、慣性モーメントが大きい事を意味しますので、回しにくい、つまり回転速度は遅いという訳です。(ヘッドスピードは前回の説明の通り、円周の速度ですので、遅いとは限りません。多少回転速度が遅くても、その分を回転半径でカバーするという考え方ができます。)
よく例に出されるのですが、フィギュアスケートのスピンは、腕を広げて回ると速く回れないのですが、だんだんと腕をたたむとどんどん回転スピードが上がるという光景をご覧になった方も多いと思います。ゴルフもこれと同じで、もしヘッドと体の距離を短くして振る事ができれば、腕をめ いっぱい伸ばして振るより速く腕を回せ、インパクトの寸前に腕を伸ばせば、最大スピードのインパクトが得られることになります。
実は、これを実現できるかできないかの違いが、プロとアマの大きな差とも言えるのです。いわゆるレートヒッティングと言われる打ち方で、先に述べた、鞭の効果も同時に実現されているのです。非力そうに見える、やせ型のプロが、ジャンボをしのぐ飛距離を出す秘密は、ここにあるのです。また、ものすごくゆっくりとスイングしている様に見える、岡本綾子プロが、あれだけの飛距離を確保できるのも、こういうスイングをしているからに他なりません。
●慣性モーメントの大きいアマチュアのスイング。腕が水平の時のヘッドと体との距離L1が大きく、クラブと腕の角度も直線に近い。従って速く振ることができない。 | ●慣性モーメントの小さいプロのスイング。体とヘッドの距離L2はかなり小さく、クラブと腕の角度も小さい。ダウンスイングが速くなり、インパクトのヘッドスピードも大きくなる。 |
実際のスイングとしては、どこが違うのでしょうか。スイングの分解写真をご覧になった事のある方はよく分かると思うのですが、ダウンスイングで腕が水平になった時の、クラブと腕の角度、またインパクト直前のクラブと腕の角度、これをプロとアマチュアを比較すれば、一目瞭然です。たとえば青木功のこれらの角度は、トップから腕を水平まで下ろした時で約30度くらい、インパクトの直前でも120度くらいはあります。インパクトのほんの少し(10度位)前までは、クラブと腕の角度が小さい=ヘッドと体の回転軸との距離が小さい=慣性モーメントが小さい→速く回転できる、という事になります。
しかもインパクトの直前で腕が10度くらい回転する間に、クラブは60度も回転する(120度あった角度がインパクト時にまっすぐ=180度に戻る)ので、手首や腕を一切曲げずに打った場合と比較すると、6倍も速いヘッドスピードが得られることになるわけです。これが鞭の効果であ り、スイングにためがあるとも言われることでもあります。
●ヘッドの軌跡。テイクバック時は手首を伸ばしたまま上げているので、軌道が大きい。ダウンスイングではコックをして振り下ろすので、ヘッドと体の距離が上図L2の様に小さくなり軌道半径も小さくなる=慣性モーメントが小さくなっている。ダウンスイング時の軌道を小さくすることで、速い回転+鞭の効果が最大限引き出される。 |
理屈は分かったが、じゃあどうすればいいのか?という声が聞こえてきそうです。実は私も未だにこれができません。練習方法としては、クラブをふり下ろす時に、グリップエンドをボールにぶつけるつもりで打てとか、コックを早くしろとか、色々と言われます。確かにそのように打つことはできない事はないのですが、私の実力では、ヘッドの返しが遅れスライスが出たり安定性に欠けたりしています。もし、これからスイングを作って行こうという方や、がんがん練習をしようという方は、是非チャレンジして見てください。
プロとアマチュアのスイングの一番違う所だというお話をしたのですが、実は、ここでお話したスイングの仕方が、アイアンでターフを取ってスピンをかける打ち方、深いラフでボールを出す打ち方、バンカーで近い距離を狙う打ち方に通じるところがあるのではないかと考えています。
そういう意味で、程度の差こそあれ、ヘッドを遅らせ、ためのあるスイングができるようにする事は、とても重要だと思います。
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