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 ボールの初速を上げるには?(長尺クラブ編)  

Vol.06 1999.09.10発行

前回のVol.05ではランとキャリーの関係や、それを決める要因についてお話しました。今回からは、実際に飛距離を伸ばす方法についてお話したいと思います。まずは、長尺クラブに関する話題です。

●ボールの初速を上げる方法

ボールの初速は何で決まるかといえば、前回もお話しましたように、ヘッドスピードとフェイス面の角度とボールの反発係数、そしてもう少し動的な要素を考え入れれば、クラブヘッドのエネルギーがボールに最適に伝わるという事でしょうか。

今回はヘッドスピードを上げる方法として、一番てっとり早い、長尺クラブについてお話したいと思います。その前にヘッドスピードを上げるには、「筋力トレーニングなどを一所懸命やりクラブを速く振れるようにする。」という、あたりまえの方法がありますが、我々アマチュアは、やりたくない人も多いと思いますし、実はこの筋力トレーニングによる効果はあまり大きくない事が分かっているようですので、ここでは触れないつもりです。

●長尺クラブを使うと必ずヘッドスピードが上がるのか?

長尺クラブを使うと、本当に飛ぶのか?という質問をよく受けますが、正確な答えは、「ほとんどの人のヘッドスピードは上がるが、平均飛距離伸びるかどうかは分からない(人による)。」だと思います。富山県工業試験センターの調査によると、長尺クラブにした場合、プロは全員、アマチュア4人のうち3人は、ほぼ長さに比例してヘッドスピードが上がったそうです。つまり、「アマチュアの1人が、長尺クラブを使っても、ヘッドスピードがほとんど変わらなかった。」という結果だそうです。

こういう議論をする時には、何か1つの条件(パラメーター)を変えた場合、他の条件がどう変わっているのかという事を無視して話を進めても全く意味がありません。「シャフトの長さを長くしたら飛距離はどう変わるか。」という事を検証したいのであれば、シャフトの長さ以外の、重さやバランスなどが一緒に変わってしまったのでは、本当のところは分からないということです。

たとえば、シャフトは長くなったが、なった分だけ重さも重く、空気抵抗も大きくなって振りにくくなれば、(速く振れる訳がない)=(かえってヘッドスピードが落ちる)、という事にもなりかねないからです。たとえば3メートルもあるクラブができたとしても、重さが重ければ速く振れないし、たとえ振れたとしてもほとんど当たらない事は、自明の理です。極端な例を考えれば、超長尺が必ずしもよいとは限らないという事が、よく理解できると思います。

●長尺にすれば、回転半径が大きくなるので、角速度(円周方向の回転スピード)も速くなる。すなわちヘッドスピードが大きくなる。 ●しかし、もし長くすることで、振りにくくなる様なことが起きれば、逆に長尺クラブの方がヘッドスピードが小さくなることもありえる。

さて話を戻して、さきほどの実験がどんなクラブで行われたかは分かりませんが、いくら科学が進歩したと言っても、長さだけが違って、他の要素、つまりシャフトの重さや堅さや固有振動数、クラブの全体のバランスや空気抵抗が全く同じというクラブを作ることはできません。もし本当にできたとしたら、長尺にすれば誰が振ってもヘッドスピードが上がるはずです。「人によっては早く振れない。」という理由は、精神的な影響もあるかもしれませんが、やはり(物理的に振りにくくなっている)=(長さ以外の条件も同時に変わってしまっている)ことは間違いないでしょう。

●長尺クラブができたのは科学技術の進歩のおかげ

そうは言っても、最近の長尺クラブは、シャフトの軽量化やヘッドの素材革命などで、かなり通常クラブと同じような感覚で振れるようになっています。ヘッドの素材はパーシモン、メタルヘッド、カーボン、ジュラルミン、チタンと、どんどん進化しています。また同じチタンでも、6-4チタンという種類からベータチタンへとさらに進化を遂げています。

クラブヘッドはどんどん大きくなっていますが、これにはいくつかの理由があります。もし今までの大きさのヘッドで長尺化をすると、少しのぶれが拡大される関係で、スイートスポットに当てるのが難しくなります。また、アドレス時、遠くにあるため今までの大きさのヘッドでは、とても小さく見えてしまい、精神的な不安感がどうしても拭えないことが挙げられます。以上の理由で、長尺化に伴い、ヘッドの大きさもスイートスポットも大きくせざるを得なかった訳です。

ヘッドを大きくできるのも先ほどの科学の進歩のおかげです。中が空洞でないパーシモンでは、大きくすれば重くてとても振ることができないでしょう。中が空洞でも、強度的にある程度以上大きくできなかったメタルヘッドも、チタンの出現のおかげで、肉厚を薄くでき、軽くて強度も充分なデカヘッドができるようになった訳です。

最近は、重心位置を調整するために、タングステンを埋め込んだクラブがはやっていますが、私の予想では、さらに慣性モーメントを上げたり、低重心にするためにヘッドの構造を異なる金属で2層にし、たとえばソールの底の方だけタングステンで、できていたり、表層だけタングステンでできているといった、2層成形クラブができる日も近いのではないかと思っています。

●長尺クラブは本当に飛距離が伸びるか?

さてめでたくヘッドスピードが上がったとします。確かに最高によい当たりをした時には飛距離が伸びるかもしれません。前回もお話しましたように、アマチュアにとっては、「平均飛距離」が一番の問題です。長尺にするということは、自分よりより遠いところのボールを打つわけですから、当然芯に当たる確率は低くなるでしょう。またスイングはよりフラットになるので、短いクラブと比べ方向性が悪くなります。また長いほどコントロールしづらいという意味で、ヘッドの返りが遅くなりやすく、スライスする確率も増えるかもしれません。

しかしこれも科学技術でかなり改善されています。ヘッドはフックフェイス(スライスが出にくいようにはじめからフェイスの向きが少し左を向いている)になっていたり、ヘッドの返りがよくなるように、タングステンなどの重りをうまく配置したりしてあります。そういう意味からは、「平均飛距離も伸びる人も多い。」が正解でしょう。

まずは、自分に合ったクラブ選びができるかどうかにかかって来そうです。なぜ私が、「必ず平均飛距離が伸びる。」または「ほとんどの人の平均飛距離が伸びる。」と断言できないかと言うと、もし本当にそうなら、飛距離を稼ぎたい非力なプロゴルファーが、どんどん48インチを採用してもよいと思うからです。おそらく個々の人にあったクラブの設計ができていないからそうはならなのだろうと思います。どんな堅い鉄の棒でも、うんと長ければよくしなります。長い橋がたわんだり、固い太い竹でできた遮断機がブラブラ揺れているのを見れば、よく理解できると思います。たとえ43インチでは堅いシャフトでも、48インチでは相対的に柔らかくなるのですから、本当にヘッドスピードの大きい人に合う、48インチは、まだこの世に存在しないのかもしれません。

●これから長尺クラブに変えようと思っている方へ

今現在、どのメーカーのどの長尺クラブも、従来の長さのドライバーと全く同じバランスやタイミングで振れるものはありません。もし何万もする長尺クラブを購入してしまい、不幸にも、使いこなせない、スライスばかり出る、またはその逆、ばらつきが多くなった・・・・という方は、スイングやグリップを長尺クラブに合うように改造するしかないでしょう。(間違っても、シャフトを切ってしまおうなどという乱暴な考えはしないようにしてください(笑)。

従って、もし今から長尺クラブを購入しようとしている方は、価格も高い事ですし、充分に試打をし、できればコースでも打ってみてから意志決定をされることをお勧めします。もしそれで納得するボールが打てたら、こんなにうれしい事はありません。ゴルフライフが変わるかもしれません。私は現在45インチですが、今のところ飛距離より安定性を求めているので、多少でもフィーリングの違う48インチに変えようという気持ちは全くありません。

決して長尺クラブに否定的な訳ではありませんが、安易な広告や店の人の勧めで、無駄な買い物を皆さんがしないようにと節に思っています。ゴルファーの心理として、高いお金を出して買ったクラブは、多少調子が悪くても友達に聞かれれば、「これは高いだけあってよく飛ぶぜ!」と自慢したいものです。この事が、長尺クラブに変えて本当に悩んでいる真の声を、かき消してしまっている可能性もあるのです。

クラブにまつわる話題は、別途詳しく「クラブを科学する」のコーナーで、ご説明したいと思います。

◆たくさんの激励のお言葉の他に、質問やお悩み相談もたくさんいただいております。そこで、Q&AコーナーをHP上に開設することにしました。なるべく個別にも対応したいと思います。


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