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ゴルフは理論!HPへ

 クラブの先に当たるとなぜフックするのか  

Vol.03 1999.07.15発行

前回までは、ボールを芯でとらえた場合に限ってお話しました。今回はボールがクラブの先やかかとにあたった場合の物理についてご説明します。

●慣性モーメントについて

ゴルフクラブのカタログなどで、よく「慣性モーメント」という言葉を見かけると思いますが、慣性モーメントっていったい何なのでしょうか。「慣性」というのは、ニュートンの運動の法則で出てくる、「そのままでいたい」という非常に保守的な法則なのです。回転する物体についても、同様に、回り始めたらずっとそのまま回っていたい!また逆に止まっているものは回されても回りたくない!といった、わがままな性質があります。

カラオケに誘っても全然乗り気でないような顔をしているくせに、行って歌い始めるとやめさせるのが大変!こんな感じの法則です。

回しにくいい物体は、確かに回すまでは大変なのですが、一度回り始めると、いつまでも回っていたい、という性質を持っています。これが「慣性モーメントが大きい」という意味なのです。

たとえば、コマを考えたとき、全部が木でできているコマと、周囲だけ鉄のリングがついているコマがあります。全部が木でできているコマは、容易に回すことができますが、すぐ止まってしまいます。逆に回りに鉄のリングがついているコマを回す時には、木製より大きな力が必要ですが、一 度回り始めると、全部が木のコマより長い間回っています。何となくおわかりいただけますでしょうか。

木のコマ 鉄のコマ
■全部木でできたコマ ■鉄のリングがついたコマ

もう少し専門的にお話すると、回転する物体の場合、なるべく外側の方が重い方が慣性モーメントが大きい、すなわち回りにくいけど、一度回ればいつまでも回っているという性質があります。

●ウッドにおける慣性モーメント

実は、ゴルフクラブにおいても同じ様な現象があります。パーシモン(柿の木)と言われる様な木製のクラブは慣性モーメントが小さく、メタルウッドは慣性モーメントが大きい、という性質があるのです。パーシモンはソールに金属があったり、フェイスにカーボンなどが埋め込まれていると はいうものの、基本的には全部木でできているコマに近いのです、それに対してメタルウッドというのは、中は空洞です。従って重量のほとんどすべてが、外側に配分されていると言える訳です。

木製ウッド メタルウッド
■木製ウッド(パーシモン)
簡単に回転してしまう。
■メタルウッド(中は中空)
比較的回転しにくい。

「でもクラブのヘッドは回転しないよ。」という声が聞こえて来そうですが、ウッドクラブの場合、重心はヘッドの中心付近にあります。インパクトという非常に短い時間を見たとき、ものすごく大きな力を受けたヘッドは、シャフトのしなりやグリップの柔らかさなども関係し、あたかも重心を中心に回転するような動きをすることがあるのです。

ボールを芯でとらえた場合は、このようなヘッドの回転が起きないのですが、芯をはずして先の方にあたったり、かかと(シャフト寄り)に当たった場合などは、ヘッドが回転運動をすることがあります。まっすぐ振り下ろされたクラブヘッドの端の方にボールが当たり、ヘッドを回転させようとする力が加わる訳ですので、木製のクラブの様に慣性モーメントが小さいクラブはすぐ回転してしてしまい、メタルウッドのように慣性モーメントが大きいクラブは回転しにくいという性質があります。慣性モーメントが大きいクラブは曲がりにくいというのは、こういう所に大きな原因があるのです。

同じメタルウッドでも、さらに慣性モーメントを大きくしようという発想で、数年前にSQ(スクエア)という四角い形のウッドがマルマンから発売されました。実は私もSQのフェアウエイウッドを使っているのですが、ドッグレッグのセカンドで少しドローやフェードをかけてやろうとし、一所懸命曲げようとして打っても、まっすぐ行ってしまう、というほど曲がらないので、この理屈は実戦でも合っているのだなあという実感を持っています。

スクエア
■さらに慣性モーメントが大きい
スクエアウッドは回転しにくい。

●ヘッドの先にあたったボールの動き

ヘッドのフェイスというのは、若干丸みを帯びている事はご存じだと思います。ヘッドの先の方は、当然右の方、つまりフェイスが開いた方向に丸くなっています。普通に考えると、ヘッドの先はフェイスが開いているのだから、ここに当たったボールはスライスボールになると思いますよね。しかし実際は、ヘッドの先に当たるとフックする事が多いのです。これはなぜでしょうか。

インパクトは前回までにもお話しましたように、2~3センチメートルはボールとフェイスがくっついています。ボールが先の方にあたった場合、ヘッドは反作用で右回りに回転します。この時、くっついているボールはヘッドの進行軌道の方向へ進みながら、それとは逆回転の左回りに回転するわけです。ボールとフェイスの間に摩擦があるため、まるでかみ合ったギア(歯車)のようにボールはフェイスと反対方向に回るわけです。従って、フェイスの先の方にあたった場合、ボールは左回転すなわちフックボールになるというわけです。

ギア効果
■ヘッドのギア効果

ただし、創刊号でもお話したように、極端にフェイスを開いて軌道をアウトサイドイン(右前から左後ろ)に引いている場合、ヘッドのギア効果の力よりスライスを生み出す、フェイスの向きや軌道の方向の力が勝って、スライスになる場合もあります。またヘッドスピードの遅い女性などの場合、慣性モーメントが勝って、フック回転がほとんどかからない場合もあります。また同じ先の方でも、本当に先端の場合はシャンクのように極端に右に出ることもあります。

●なぜメタルヘッドのフェイスの丸みは小さいのか?

慣性モーメントの小さい木製ヘッドは、当然メタルヘッドより回転しやすく、結果的にスピンがたくさんかかり、フック量が多いということになります。木製ヘッドのフェイス面の丸みがメタルヘッドより大きいのは、このフック量をあらかじめ考慮して、先にあたった時にはボールが右に出るようにして、フック分を相殺してやろうという考えです。もうお分かりだと思いますが、メタルヘッドのフェイスがあまり丸みを帯びていないのは、実は慣性モーメントが大きいので、先の方にあたってもフック量が少ないから、あまり右方向にボールを出してやる必要がないというのが深層です。


はじめてこのギア効果の説明を聞く方にとっては、とても分かりにくい内容だったかもしれませんが、クラブメーカーはヘッドの重量を周囲に配分したり重心位置を調整することで、スイートスポットの広い、曲がらないクラブ作りを目指しています。パーシモンのような木製のクラブにくらべて、最近のメタル、チタンヘッドのクラブは慣性モーメントが大きいため、ギア効果によるボールの回転が少なく、芯をはずして打っても曲がりにくい構造になっており、我々アベレージゴルファーにとってはうれしい限りですね。

◆たくさんの激励のお言葉の他に、質問やお悩み相談もたくさんいただいております。そこで、Q&AコーナーをHP上に開設することにしました。なるべく個別にも対応したいと思います。


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